フィラリア症(犬糸状虫症)は、蚊が寄生虫を媒介することによって引き起こされる感染症です。そのため、蚊が出始める4月頃から駆虫薬を飲み始め、発症を予防していく必要があります。毎月忘れずに投薬することは大変かもしれませんが、100%予防できる病気ですので予防の重要性をご理解いただきたいと思います。
どのようにフィラリアが感染し、どのように予防するかについて、以下で詳しく説明いたします。
フィラリア症について
フィラリアは蚊によって媒介され、心臓や肺動脈に寄生しますが初期であれば症状は通常ありません。しかし、感染し無症候であっても、成虫が体内で
大量の子虫を産出し血液中にめぐっている場合、感染源になり得ます。
そして病気が進行すると、以下のような様々な症状を引き起こします。
さらに重症化すると心不全や呼吸不全などにより亡くなってしまう恐れもあります。
このように、フィラリア症は死に至ることもある病気ですが、駆虫薬によって100%発症を防ぐことができるので、しっかりと予防することが大切です。
フィラリアが犬に寄生するまで
蚊がフィラリアに感染している動物の血液を吸うと、蚊の体内にフィラリアの子虫(ミクロフィラリア;L1)が入り込みます。蚊の体内に入ったミクロフィラリアは、蚊の中で2回脱皮してL1→L2→L3と成長し、感染できる状態の子虫(L3)になります。L3の子虫は蚊の吸血部位から動物の体の中へと侵入します。
動物の体に侵入した子虫(L3)は、皮膚の下(脂肪や筋肉)で2回脱皮してさらにL3→L4→L5と成長し、約3~4ヶ月で血液中に移動します。心臓、肺動脈に辿り着いたL5はそこで成虫にまで成熟し、雄と雌で交配をおこなってミクロフィラリアを産出します。
動物の体に侵入してから約6~7ヶ月でミクロフィラリアが生まれ、この状態の動物が蚊に吸血されることで、蚊の体内に子虫が侵入・成長します。そして蚊がさらに別の動物を吸血することで感染が広まります。
猫のフィラリア症について
フィラリア症は主に犬に見られる病気ですが、猫でも感染が起きることがあり、犬とは異なる病態と症状を示します。
猫の体内に入ったフィラリアの大半は猫の免疫反応により成熟する前に死滅します。そのため、通常、猫の体内でフィラリアが成熟することは稀ですが、心臓や肺動脈に到達したフィラリアが死亡すると、心臓や肺の血管を閉塞させたり急性炎症を引き起こしたりして、咳、呼吸困難、嘔吐、体重減少などの症状を引き起こします。また、稀にではありますが突然死の原因にもなると報告されています。
症状が現れたときには、すでにフィラリアは死亡していることが多く、犬とは異なり検査方法が存在しないため、CT検査などでしか発見できません。肺や血管の病変に対する治療は有効性に乏しく、時間もかかります。犬と同様、完全な予防が可能な疾患ですので、適切な対策を講じることで愛猫の健康を守ることができます。
フィラリア症の予防について
蚊が1番活発に活動するのは気温が20度〜30度の時ですが、4月頃から出始めて、10月や11月の涼しくなってきた時期でも活動しています。また、蚊の体内でL3の子虫に成長できるのは平均気温が14度以上の環境が必要と言われています。東京都で平均気温が14度を下回るのは12月下旬以降であるため、当院では4月~12月をフィラリア症の予防シーズンとしておすすめしています。
1、検査
駆虫薬を投与する際にはフィラリアがすでに寄生していないことを確認する必要があります。既に感染している動物に駆虫薬を投与してしまうと、体内の子虫が死滅して急激なアレルギー反応やショックが起きることがあります。そのため、必ず血液検査で陰性を確認してから駆虫薬を使うようにしてください。
2、投薬
錠剤タイプ
月に1回の投与が必要です。フードやおやつに包んで与えたり、口の奥に押し込んで飲ませたりします。食物アレルギーがある子にも安心して使っていただけます。一方、味覚に繊細でお薬を吐き出してしまう子では投薬が難しくなります。
チュアブルタイプ
月に1回、製剤によっては3か月に1回の投与が必要です。口の中で噛んでから飲み込む錠剤のことで、薬剤が練りこまれたおやつ状の製品です。ほとんどの子に使っていただけますが、食物アレルギーがある子の場合は注意が必要です。
スポットタイプ
月に1回の投与が必要です。 液体を首の後ろの皮膚に塗布して使用するタイプです。錠剤やおやつを受けつけない子や、食物アレルギーがある子も安心して使用できます。塗ったお薬は皮膚から吸収されて効果を発揮するので、塗布後一定時間が経てばシャンプーすることも可能です。皮膚に直接つけるものなので、皮膚が敏感な子や動き回ってしまう子では塗布が難しい場合もあります。
注射タイプ
1回の注射で通年予防が可能となります。お薬の投与し忘れの心配もなく、確実に予防できるのがメリットです。前述のお薬には糸状虫と同時に他の寄生虫を予防・駆虫できるものもありますが、注射タイプはノミ・ダニなど他の寄生虫に関しては別途でそれぞれの予防薬が必要になります。また、薬剤に対するアレルギーによってごくまれに発熱、顔が腫れる、アナフィラキシーショックなどの症状が出ることがあります。
その他注意事項
お薬を飲ませるのを忘れてしまったとき
まずはどのくらいの期間飲ませられなかったのかをご連絡ください。検査なしの再投与を恐れてそのまま投薬をやめてしまうとさらに感染のリスクが高まります。どのように投薬をしていくか相談していきましょう。
薬を吐いてしまったとき
お薬を飲んでからどのくらいの時間で吐き出してしまったのか獣医師に教えてください。追加の投与が必要かどうかこちらで判断します。
スポットタイプのお薬を塗布した場所を気にしている
塗布した場所が乾くまでは背中をこすりつけたりして気にする様子が見られるかもしれません。まれに個体差による一過性の過敏症(投与部位の刺激による掻痒、発赤等の皮膚炎、脱毛)が起こることがあります。もし、症状が持続または悪化する場合は、薬が合っていない可能性もあるので、直ちに獣医師に相談するようにしましょう。
フィラリアの検査は毎年必要?
1年通してお薬を飲んでいる場合には必ずしも検査は必要ではありませんが、実は飲めていなかったり見ていないところで吐き出してしまっていたりということがあるかもしれません。去年のお薬が残っていたりしても、飲ませ始める前に検査をした上で新シーズンの予防を始めることをおすすめします。