病気紹介

腸閉塞(犬・猫)

はじめに

 腸閉塞とは、異物や腸管自体の病変、あるいは腸管の外側にある臓器の影響によって腸の通過が障害され、内容物が先へ進めなくなる状態をいいます。
 もっとも多い原因は異物の誤食です。犬ではおもちゃ、ビニール類、靴下、果物の種、トウモロコシの芯など、猫では“ねこじゃらし”や紐状のものなど、消化できない物を飲み込むことで発生します。
 誤食してすぐに症状が出るわけではなく、胃から腸へ移動し、実際に腸管をふさぐ位置に到達した時点で急激に嘔吐などの症状を示します。ちなみに、通常食べた物は4〜6時間ほどで胃を通過しますが、消化されない異物は数ヶ月〜数年胃内にとどまることもあります。数年前に飲み込んだ物が腸閉塞の原因になることもあります。
 異物以外にも、消化管の腫瘍による内腔狭窄、腹腔内腫瘍の圧迫、回虫の大量寄生、腸重積、腸捻転、鼠径ヘルニア・臍ヘルニア・大網裂孔などのヘルニア孔への腸管陥頓など、多様な原因で腸閉塞は起こります。なかでも腸重積は、パルボウイルスや寄生虫感染、異常な消化管運動などが誘因となります。
 腸閉塞の発見が遅れると、腸管の血行障害や壊死が進行し、穿孔による細菌性腹膜炎・敗血症を引き起こすことがあります。数時間のうちに命を落とすこともある危険な病態のため、早期診断・早期治療がとても重要です。

症状

 症状は閉塞の部位や程度によって異なりますが、以下のようなものがみられます。

  • 嘔吐(特に頻回の嘔吐)
  • 食欲不振
  • 元気消失、沈鬱
  • 排便の減少または停止
  • 血便
  • 脱水
  • 腹部痛

 胃に近い部位の完全閉塞では、短時間で強い嘔吐を繰り返します。一方、亜閉塞(不完全閉塞)では、食欲不振・間欠的な嘔吐・下痢など、比較的軽度に見える場合もあります。しかし、軽い症状であっても進行すると重篤化するため注意が必要です。

こんな症状があるときは早めの受診を

 飼い主の方が判断に迷いやすいポイントをまとめました。

  • 半日以上嘔吐が続く
  • 水を飲んでも吐く
  • 何度も吐こうとしているが出ない
  • 激しい元気消失
  • 異物を食べた可能性がある
  • 排便が出ていない
  • 腹部を触ると嫌がる・痛がる

 これらに該当する場合は、腸閉塞の早期発見につながるため、すぐにご相談ください。

診断

 腸閉塞は発見の遅れが重大な結果につながるため、嘔吐や食欲不振を訴える動物では必ず画像検査により腸閉塞の有無を確認します。

● X線検査

  • X線不透過性の異物
  • ガスによる腸管拡張
  • 遊離ガス(腸管穿孔の可能性)
  • 腹水の有無

 猫に多い紐状異物では、腸が手繰り寄せられるアコーディオン像が特徴的です。

● 超音波検査
 超音波は、

  • 異物の描出
  • 閉塞部位より手前の腸管拡張
  • 腸管の壁構造
  • 腸管腫瘍
  • 他の腹部臓器の腫瘍性病変

 の評価に非常に有用です。
 幽門部・遠位十二指腸・近位空腸・回盲部は異物閉塞の好発部位で、特に注意して観察します。
 十分な毛刈りや鎮静により診断精度が高まり、熟達した獣医師であれば小型犬・猫の腸閉塞を高精度に検出できます。
 ただし体格が15kgを超えると、脂肪量や腸管深度の影響で精度が低下することが知られており、X線・CT検査を組み合わせて診断します。

● CT検査
 動物のCT検査は全身麻酔が必要ですが、造影CTにより緊急性の高い腸閉塞のほぼ100%が診断可能とされています。
 従来の“手探りの試験開腹”よりも安全で、身体への負担が少ない方法です。
 それでも、原因不明の腹膜炎や腸管拡張が持続する場合には、試験開腹術が適応されることがあります。

治療

 基本的な治療は緊急開腹手術による閉塞の解除です。
 診断後、静脈点滴により脱水や電解質異常を補正し、状態を安定させてから手術に臨みます。

● 異物閉塞の場合

  • 異物摘出(腸切開)により多くは良好に回復します。
  • 腸管の壊死がある場合は壊死部を切除し、健康な部分同士をつなぐ吻合術が必要です。

 腸捻転など広範囲に壊死が及ぶ場合は予後不良となります。
 ヘルニアによる絞扼では、短時間で敗血症性ショックに進行するため迅速な処置が必要です。

● 手術をせず様子を見るケース
 完全な閉塞でなく、異物がすでに小腸の後方へ流れていってしまっている場合は、手術をせず排泄されるのを待つこともあります。 しかし、いつ完全閉塞へ進行し手術が必要になるかわからないため、慎重な経過観察が必須です。

● 腫瘍による腸閉塞
 腫瘍の種類や広がりによって治療方針は異なります。
 外科切除が可能な場合は切除を、難しい場合は抗がん剤による腫瘍縮小や緩和的治療を行います。

● 穿孔・腹膜炎を伴う場合
 敗血症・細菌性腹膜炎への治療が必要で、迅速な対応が生死を左右します。

誤食の予防と家庭でできる対策

● 犬・猫が誤食しやすいもの(実際の臨床例より)

  • 子どものおもちゃ
  • ぬいぐるみの中綿
  • ヘアゴム・ヘアピン
  • 靴下・タオル・ハンカチ
  • 紐状のもの(ニット、リボン、レジ袋の取っ手)
  • ねこじゃらし・観葉植物の葉
  • コーンコブ(夏に特に多い)
  • 竹串・プラスチック包装材(イベントシーズン)

「まさかこんなものを食べるとは思わなかった」というケースが非常に多いため、家庭内の環境づくりが重要です。

● 誤食癖のある子への対策

  • 手の届く範囲に物を置かない
  • おもちゃは“目の届くときだけ”使用
  • ゴミ箱はフタ付きのものに変更
  • 何か物がなくなっていないか日常的に確認する習慣をつける

誤食を目撃した場合の行動

 誤食から時間が経っておらず異物が胃の中にとどまっていれば、

  • 催吐処置
  • 内視鏡による摘出

 が可能なことがあります。
 特に内視鏡摘出は開腹より負担の少ない方法です。
 ただし、大型・鋭利・表面が粗い異物は内視鏡での摘出が危険なため、開腹による摘出を行います。
 飲み込んだ異物と同じ物があれば、持参していただけると診察の助けになります。

獣医師から

 異物誤食は、腸閉塞や腸管の壊死、開腹手術、最悪の場合は命を奪う深刻な結果につながります。しかし、日頃の環境管理によって多くは防ぐことができます。
 また、嘔吐や食欲不振などの症状は、異物だけでなく消化管腫瘍や腹腔内腫瘍が見つかるきっかけになることもあります。
「うちの子は異物を食べないから大丈夫」と思わず、気になる症状があれば早めにご相談ください。
 早期に発見できれば、動物たちへの負担は大きく減らすことができます。
 誤食の疑いがあるときや、心当たりがなくても嘔吐を繰り返す場合などは、早めの来院をおすすめします。

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