病気紹介

難産について

はじめに

 出産はときに命に関わることがあります。難産は全体の5%ほど発生すると言われており、そのうちの約70%は帝王切開が必要となります。難産の原因は犬猫ともに子宮無力症が60~70%と高く、それに胎位異常、胎子過大、胎子奇形、産道狭窄と続きます。排卵日や妊娠期間が不明な場合には血液中のプロジェステロン濃度を測定して分娩期を予想する場合もあります。

難産になりやすい子

 犬種や体の大きさによって難産になりやすい子がいます。

・犬種:(フレンチ)ブルドッグ、ペキニーズ、ボストンテリア、マスティフ、ミニチュアブルテリア、ジャーマンポインター、スコティッシュテリア、セントバーナード、ダンディディンモントテリア。短頭種は胎子の頭部が大きいため胎子が産道を通過できない事態が頻発します。

・過大胎子:チワワ、ポメラニアンなどは母犬の骨盤の縦幅が短いため、胎子が大きい場合は産道を通過できません。

・胎子数が少ない:1~2頭と少数の場合、胎子が通常より大きく成長し、難産の可能性が高くなります。また胎子数が少ないと子宮の張りが少なく、分娩時に胎子の刺激が子宮に伝わらずに陣痛の発現が遅れることがあります。

・帝王切開歴がある症例

・骨盤骨折などにより骨盤狭窄がみられる症例

・初産の場合:外陰部が狭く、産道を半分通過した胎子が外陰部を通過できないことがあります。

・子宮無力症:分娩時に子宮が十分に収縮できない状態を微弱陣痛と呼び、犬猫では子宮無力症と呼ばれています。
 分娩開始から起こる子宮無力症を原発性子宮無力症といい、子宮自体の要因により子宮が収縮できない状態で、小型犬・高齢犬・肥満犬で遭遇しやすいです。一方で最初は子宮が反応するものの、分娩経過の途中で子宮無力症となるものを続発性子宮無力症といいます。胎位異常や過大胎子、産道の異常などで子宮が強く収縮しても娩出出来ない状態が続いたり、胎子数が多い場合には子宮が消耗して無力症となります。

・母親が神経質の場合:過度なストレスにより原発性子宮無力症となることがあります。

難産の症状

 正常な妊娠の場合は震え、パンティング、消化器症状、巣作り行動、体温低下(犬)、食欲低下(猫)などが見られ、陣痛が始まると体温が正常に戻り、破水、胎盤排泄が見られます。乳汁分泌は分娩直前に急増する傾向にありますが、個体差が大きいです。初産の犬では分娩直前に、経産犬では分娩の数日前からみられることもあります。チワワなどの超小型犬では自然分娩後も乳汁の分泌がほとんどないこともあります。
 しかし何かしらの理由で難産になってしまった場合、難産が疑わしい場合には以下のような症状が認められます。

・直腸温が37.8℃以下、巣作り行動など分娩直前の兆候をみとめてから24時間経過しても分娩されない。

・努責が30-60分間以上持続しているにもかかわらず分娩されない、あるいは努責が微弱または不定期で不十分。

・胎膜が15分以上露出している。

・分娩間隔が3-4時間以上である。

・犬24時間以上、猫36時間以上経過していても、分娩が終わってない。

・最初の交配から70-72日間以上、最後の交配から68-70日間以上、発情間期から58日間以上経過している。

・破水から1-2時間経過している

難産の診断

 難産かどうかの判断は、前述の犬種や出産歴をもとに、上記症状や体温の変化があるかどうかの問診と身体検査、超音波検査などで行います。そのため出産を控えている動物が自宅にいる場合は飼い主様の日々の細かい観察が重要です。

難産の治療

 緊急帝王切開は胎子死亡率の増加要因になる為、事前に難産のリスクが高いと判断した場合には予定帝王切開が選択されます。予定帝王切開を実施する場合には少なくとも妊娠期間の90%(57日間)を超えること、画像検査で胎子が育っていることが条件となります。90%に満たない出産(早産)では新生子の生存困難、胎盤剥離に伴う大量出血、乳汁分泌不全、育児放棄などのリスクが上がります。
 また子宮無力症による難産であり、解剖的・物理的問題がないと判断した場合には助産を行います。いずれにしても母子共に命に関わる緊急的な処置なのでご自宅で出産中に少しでも異変を感じたらすぐに獣医師にご相談ください。

獣医師から

 我々は24時間病院として、出産前の検診から出産後のケアおよび緊急時にも安心してご利用いただけるように努めます。緊急時にスムーズな処置を行うために、妊娠が判明したら事前に受診していただくことをおすすめします。妊娠および出産に関してご不安な点が生じた場合は必ず獣医師に相談してください。

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