病気紹介

肺高血圧

はじめに

 肺高血圧症についてご存じでしょうか?高血圧症という言葉には馴染みがあるかもしれません。生活習慣病の1つで日本では60歳以上の約半数が高血圧症を患っているとも言われていますが、これは正確には体高血圧症といい、末梢血管の血圧が上がる病気です。一方で肺高血圧症とは心臓から肺に血液を送っている肺動脈の血圧が上がる病気で、体高血圧症とは全く異なる病態です。肺高血圧症が進行すると、心臓に負担がかかることで右心不全に陥り、血液のうっ滞が全身臓器に悪影響を及ぼします。

原因

 心臓もしくは肺の疾患が原因となり肺高血圧症を生じますが、その原因疾患は様々で大きく6つに分類されています。例えば、間質性肺疾患や肺炎、肺腫瘍、肺血管の血栓塞栓、先天性の心臓奇形、フィラリア症、心筋症や弁膜症などの心疾患などが挙げられます。その中でも特に、犬では僧帽弁閉鎖不全症、猫では心筋症に伴う肺高血圧症が最も多く認められます。

原因 具体的な疾患
Ⅰ型 肺動脈性/肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管症 薬物誘発性、先天性心疾患、肺血管炎、肺アミロイドーシス
Ⅱ型 左心性心疾患 僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、心筋炎、僧帽弁狭窄、大動脈狭窄
Ⅲ型 肺疾患や低酸素血症 気管虚脱、間質性肺疾患、肺腫瘍、肺炎、肺気腫、気管支拡張症、睡眠時呼吸障害
Ⅳ型 塞栓性 急性、慢性
Ⅴ型 感染性 フィラリア症、充血線虫症
Ⅵ型 原因不明もしくは多因子 Ⅰ~Ⅴのうち2つ以上の原因疾患を持つ場合

症状

 運動時にすぐ疲れてしまう、安静時でも呼吸が荒くなる、突然失神してしまうなどの症状が認められることが多いですが、軽症例では症状が認められないことも多く、症状が認められる時には病態がかなり進行している可能性が高いです。また、右心不全に進行すると腹水貯留による腹囲膨満や浮腫が認められます。

診断

 肺高血圧症は肺動脈の平均圧が25㎜Hg以上と定義されていますが、実際に肺動脈圧を測定するには特殊なカテーテルを静脈から心臓を通って肺動脈内に挿入しなければならず、鎮静処置が必要になります。したがって、ルーチン検査として行うことができないため、画像検査で総合的な診断を行います。X線検査は、肺及び心陰影を評価することで背景疾患の鑑別に有用です。しかし、X線検査だけでは心機能の細かい評価を行うことができず、肺高血圧症の診断はできません。そこで有用なのが超音波検査です。アメリカ獣医内科学会(ACVIM)のガイドラインでは以下のような診断基準が設けられています。

三尖弁逆流速度
(m/sec)
解剖学的に肺高血圧症を疑う所見の数 肺高血圧症の可能性
≦3.0 or 
測定不可
0~1 低い
2 中程度
3 高い
3.0~3.4 0~1 中程度
≧2 高い
≧3.4 0 中程度
≧1 高い

*心室・肺動脈・右房または後大静脈のうち、エコー検査上で肺高血圧症の所見が認められる部位の数

 上記の診断基準と照らし合わせることで肺高血圧症の診断が可能ですが、超音波検査で確認するべき項目が多く、ある程度熟練した検査技術が必要となります。
 また、肺疾患が原因の場合には、その特定にCT検査が必要になることも多くあります。当院では、超音波検査を用いた診断及びCT検査が可能です。

肺高血圧

↑肺高血圧症の心エコー画像
右心室の拡大により左心室の拡張不全が生じている

治療

 原因疾患への治療が基本になるため、治療法は原因次第で多岐に及びます。しかし、原因によってはそもそも根治的な治療ができない場合や、難易度の高い手術が必要な場合もあります。したがって、その場合には肺動脈を弛緩させる作用のある内服薬(PDE-5阻害薬やエンドセリン受容体拮抗薬など)で内科的な対症療法を行います。

肺高血圧症により肺水腫及び胸水貯留、腹水貯留のみられた症例

↑肺高血圧症により肺水腫及び胸水貯留、腹水貯留のみられた症例

獣医師から

 肺高血圧症は進行すると心不全をおこして、最悪死に至る病です。しかし、軽症例では症状が出ないことも多く、症状に気付いて動物病院に行った時にはすでに進行し重症化しているケースが少なくありません。どの病気においても言えることですが、早期発見することで進行を遅らせ、健康寿命を延ばすことが可能です。そのためにも若いうちから定期的な健康診断を行うのがベストであり、肺高血圧症の診断には超音波検査が必要不可欠であるため、当院では超音波検査を含めた健康診断を推奨しております。患者さん個々に合わせて健診内容を決めておりますので、気軽にお問合せください。
 また、肺高血圧症の原因にフィラリア症がありますが、フィラリア症に関しては予防が可能です。月に1回の予防薬の服用で簡単に予防できるので、蚊がいる可能性のある時期(4~12月)は予防薬の服用を忘れずに行いましょう。

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